遺書
房江 健一 直子 さようなら
お父さんはもう二時間ほどで死んでいきます
おまえ達とは別れ、遠い遠いところへ行ってしまいます
もう一度会いたい
もう一度みんなで暮らしたい
許してもらえるのなら手が一本 足がひとつもげても
おまえ達と一緒に暮らしたい
でも、もうそれは出来ません
せめて、せめて生まれ変わることが出来るのなら
せめて、せめて生まれ変わることが出来るのなら・・・
いいえ
お父さんは生まれ変わっても
もう人間にはなりたくありません
人間なんていやだ
牛か馬の方がいい
いや牛や馬なら、また人間にひどい目にあわされる
いっそのこと、誰も知らない、深い、深い、海の底の貝・・・
そうだ、貝がいい
深い海の底の貝だったら
戦争もない
兵隊に取られることもない
深い海の底なら
戦争もない
兵隊もない
房江や健一、直子のことを心配することもない
どうしても生まれ変わらなければいけないのなら・・・
私は貝になりたい